概要
WhisperMaskは周囲がうるさい環境であっても、自分の声だけを拾えるノイズキャンセリングマイクです。地下鉄などの騒音環境や他の人が隣で喋っているような場所であっても囁き声のような小さな声までクリアに拾うことができます WhisperMaskでは、振動を音声に変換するマイクの部品であるダイヤフラムを改良しています。布型のフレキシブルなダイヤフラムを用いることで指向性が高まり、マスクのマイクの内側の音のみを取得できます。この新たなノイズキャンセリングの仕組みにより、周囲の音が入らず自分の声だけを拾うことができます
経緯
私がWhisperMaskを作るきっかけになったのはCovid19でのマスク着用がきっかけでした。マスクをつけると相手に声が伝わりにくく、さらに周りで人が話している環境ではノイズも入り、オンラインミーティングでの聞き取りにくさは深刻なものがありました。 Covid19ではリモートミーティングが広まったのですが、外出先では特にうるさい環境ほど大きな声を張り上げて話す必要があり、小さい声もノイズに乗らずに利用できるデバイスが欲しいと思っていました。近年ではAIによってノイズを取り除く技術が発達しているのですが、小さく話した声に他の人の大きい声が被さった時には小さい声を取り出すことがそもそも難しく、ソフトウェアではなく音声を記録するデバイスの方から問題を解決したいと思い開発に至りました。
機能
居酒屋のようなうるさい環境でも自分の声だけが拾える、布型のマイクを開発しています。これまでのマイクではノイズを消すのが難しかった、目の前で人が話していたり、電車が通過するようなで他の音が入る環境でも自分の声だけを綺麗に取ることができます。具体的には80dB以下の環境ではノイズなく入力することができ、囁き声のような小さな声でもリアルタイムに拾うことができます。 WhisperMaskは、布型の振動板という新しい構成のマイクを作ることでノイズキャンセリングを実現しています。マイクは周囲の音を電気信号に変換する振動板という部分があり、従来のピンマイクでは1cm以下の小さな振動板で音を拾っています。一方でWhisperMaskでは10cm程度の比較的大きい振動板を使っており、大きい面積の振動板を動かすための大きい声のみを拾うことができます。周囲の音は顔にフィットしたフレキシブルなマイクを振動させることが難しいので、結果的に装着した人の声だけを取り出すことができます。 このデバイスはソフトウェアでの処理を使わずに録音するだけで周囲のノイズをキャンセルできるので、遅延なく自分の声だけを取り出すことができます。
開発過程
私がWhisperMaskを作るきっかけになったのはCovid19でのマスク着用がきっかけでした。マスクをつけると相手に声が伝わりにくく、さらに周りで人が話している環境ではノイズも入り、オンラインミーティングでの聞き取りにくさは深刻なものがありました。 そこで最初に、そもそも声を出さないような口パクでの入力ができればマスクをしても声が届くのではと思い、口の動きから発話を認識するデバイスSilentMaskを作りました。加速度センサーをマスクに取り付けて AIで口パクを認識するデバイスを提案し、これによってAlexaやGoogle Homeとのやりとりなどのデバイスの操作ができるようになりました。しかし、認識できる言葉の数が少なく、音声で伝えるのが難しいという課題を解決できていませんでした。 そこでセンサーの研究者とコラボして布型のスピーカーを使った際に、布型のマイクが作れないかを模索していました。スピーカーとマイクは似たような構造で音を扱うことができるので、布型の大きいマイクであれば大きいマイクを振動させられるような大きい音しか入らないのではないかと考えて、WhisperMaskを実現しました。
差別化
WhisperMaskはソフトウェアでのノイズキャンセルを使わずに、振動の仕組みを変えることでうるさい環境で利用者の声だけを、小さい声であっても綺麗に取得することができます。 既存のイヤホン型のマイクでは、左右の耳のイヤホンで自分の声を取れてもうるさい環境では大きい声しか取れないので声を張って話す必要があります。 また咽頭マイクのような首につけるタイプのマイクは、声が体の中を通るので、音がフィルタリングされてしまってこもった声になるのですが、WhisperMaskは空気を振動させて伝わる音を拾うので比較的聞き取りやすい声になります。 AIによるノイズキャンセル技術もあるのですが、小さな声だけを取り出すことや、複数の人が同時に話しているときに話者特定すること、高性能なGPUを必要とすることがこれまでの課題でした。WhisperMaskは録音するだけで、囁き声であっても、確実に自分の声だけをリアルタイムに取り出すことができます。
将来の計画
現在は研究において原理の検証と特許の出願ができた段階で、このコンテストの受賞をもとに研究をさらに拡大し、プロトタイプを改良していきます。具体的にはデバイスの小型化や音声の高音質化をしていきます。 今後はマスクの形だけでなく、ヘッドセットやヘルメットなど他の形のデバイスを制作し、医療現場や工事現場などで実証実験を行なっていきます。 その後、認証、生産の開始を可能にするシリーズ A の資金調達を目指します。 デバイスの開発を通じてどこでも音声コミュニケーションを利用可能な社会を目指します。
他アワードでの受賞歴
Demo Award at 30th Workshop on Interactive Systems and Software (WISS 2022, Japan)
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