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国内準優勝

洋上風力発電のブレード点検作業を行うロープ自走式昇降機

固定されたロープ上をカメラで撮影しながら昇降し、洋上風力発電のブレードの点検作業を行うプロダクト。限られた空間でも簡便にシステムを敷設できるのが特長である。従来の人による点検作業に変わってこの昇降機を使うことで、コストや電力損失の削減、そして安定的な電力供給を維持することができるようになる。

  • 洋上風力発電のブレード点検作業を行うロープ自走式昇降機

  • 「洋上風力発電のブレード点検作業を行うロープ自走式昇降機」のプロトタイプとデモンストレーションの映像。

    「洋上風力発電のブレード点検作業を行うロープ自走式昇降機」のプロトタイプとデモンストレーションの映像。

  • コンセプトのイメージ図。ブレードの両面にロープを張り、その上を昇降しながらカメラで撮影をする。

  • 「自走式昇降機」の構造。ロープをローラーで挟み、内蔵した動力で自走昇降する。

  • はじめに製作した小型コンセプトモデル。総重量約1㎏。

  • 現在のロープ自走式昇降機。総重量約5㎏。20㎏までの重量物搬送を実証した。右図は昇降している様子。

概要

この作品は、内蔵された動力でロープ上を昇降する自走式昇降機によって洋上風力発電のブレード(翼部)点検作業を行う。 従来の人間による洋上風力発電の点検作業は高所作業のリスクが伴っていたが、本技術を用いることでこの課題を解決できる。ブレードにロープを張りその上をこの昇降機で往復させ、カメラを使用してブレード上の汚れや破損を点検する。限られた空間でも簡便に点検システムを敷設することができる。これにより、点検作業に伴うコストや電力損失を削減し、安定的な電力供給を維持することができる。


経緯

 我々は元々、宇宙エレベーターと呼ばれる未来の宇宙輸送手段の要素技術の1つであるロープ上自走型昇降機の開発を行ってきた。これまで開発してきた昇降機の技術を地上産業に応用すべく、地上から山小屋への輸送や、建設現場における物資輸送などに取り組んできた。その中で得た経験やいただいたフィードバックを活かし、よりインパクトの大きく挑戦的な課題に挑戦したいと考え、今回の洋上風力発電の点検作業に着目した。  洋上風力発電の運用及び保守点検にかかる費用は、発電原価の約2割を占めている。その原因の一つは、人力による点検作業の場合、高所での作業となる上、ブレード上のクラックなどの異常に気づくことのできる判断力が必須であることが挙げられる。さらに、洋上の風車へのアクセスの困難さや、点検中は1基あたり最大80時間も運転を停止しなければならないことも費用がかかる原因である。今後ますます開発が進むとされる洋上風力発電で安定的に電力を供給するためには、コストを抑えた効率の良い点検システムの構築が必要だと考え、開発・検証をスタートさせた。我々の考える最終的な状態は、ロープ自走式昇降機を常に風力発電のブレードに取り付け、運用を止めずに自動で点検をすることである。


機能

このロープ自走式昇降機のメリットは、以下の3つである。 ①ロープを取り付けるだけでその上を走行し点検ができるため、リスクの高いロープ高所作業を行う必要がなくなる。この輸送機はブレードを至近距離で撮影し、画像診断技術を用いた点検を行う。さらに小さなハンマーやマイクを搭載することで、打音の検査も行うことができる。 ②同時に、必要な作業員の省人化を実現できる。現在、風力発電の点検には現場責任者を含め5人程度必要である。一方でこの自走式昇降機の場合は人による点検が不要であるため、必要な人数は数人に削減できる。人数が少なくなることで、必要なアクセス船も小規模なものにすることができる。 ③さらに、点検作業にかかる時間も短縮できる。一度にブレードの両面の点検も行うことができるため、これまでの点検作業の2倍以上の効率で進めることが可能である。それに伴い、設備停止期間の短縮も実現できる。 この作品の技術的新規性は、固定されたロープ上を自動で昇降することができる機構にある。3枚目の画像に自走式昇降機の構造を示す。本昇降機はロープをローラーで挟み、ローラーにモーターの動力を伝えることでロープとローラー間に摩擦が生じ、鉛直方向へ駆動する。これまで機体の重量や減速比の調整をすることで、様々な速度で安定した昇降に成功することができた。


開発過程

 過去の開発で最初に取り組んだことは、自走型昇降機の設計コンセプト検証である。まず、ロープをローラーで挟み、内蔵した動力で自走昇降する小型コンセプトモデル(総重量1 kg)を作成し(図4)、ロープ上の自走昇降が可能であることを確認した。続いて、観測機器や搬送物を搭載した状態でも安定した昇降を行えるよう両手で抱えられる開発モデル(5 kg程度)に着手した(図5)。この開発モデルでは搬送物重量を20 kgまで搭載することができ、かつ最大30 km/hでの昇降が可能となった。性能向上にあたって、部品の材料や形状には工夫を凝らした。特に、自走式昇降機の場合は自身の重量が昇降性能に大きく影響する。コンパクトで軽量な昇降機でもパワフルな性能を発揮できるよう、想定される荷重に対して効果的に剛性を有する形状となるよう設計を重ねた他、超ジュラルミンを始めとした軽量かつ高剛性な合金を随所で採用した。また、安価に容易な設計変更を重ねられる軽量部品として、荷重を受けない箇所に対しては3Dプリンタ印刷による部品を積極的に用いた。  続いてサイズの大型化に伴い、安全性を高める改良に至った。まず構造設計においては、各構造部が無理な変形や破損をしないよう応力/変位計算を行い、適切な値に収まるよう寸法や形状の設計を見直した。また、昇降機がロープから横方向にずれて脱落しないようガイドレールを設けた。メカトロニクスの点でも安全性を高める機能改良を行った。まず、昇降機の上下端に非接触型センサを導入し、センサ検知時に自動で運転を停止できるようになった。また、ロータリーエンコーダを搭載し、ローラーの回転数から計算される距離を運転制御に用いることができるよう改良した。また、昇降における上限/下限値を設定し、与えた既定値に近づいた際自動で上昇/下降を停止できるように改良した。さらに、鉛直方向に下降する際、自由落下とならないようブレーキを搭載する必要があった。また、サイズが大型化することで、コンパクトかつ高い制動性を持つブレーキが求められるようになった。そこで、従来の単純な摩擦ブレーキから、自己倍力作用(セルフサーボ)を持つブレーキに改良した。その結果、搭載物の重量に適した制動力をコンパクトかつシンプルな構造で実現できるようになった。  さらに、操作におけるユーザービリティの向上にもこれまで努めてきた。ボルト/ナットの代わりにロックピン等を代用することでロープ取付時の操作手順を簡略化し、簡単な利用を可能にした。また、バッテリー取付位置も工夫し、機体をロープに取り付けたまま容易に充電を行えるよう改良した。また、搬送物に合わせて様々なインターフェースを取り付けられるようにした。  最後に、ここまで開発してきた昇降機を、洋上風車のブレード点検に適した機能を持つよう改良した。まず、ブレード点検用のカメラを搭載できるインターフェースを開発した。また、任意のブレード位置を点検できるよう、上下両方向駆動で細かい位置制御できるよう制御操作を改良した。


差別化

①ドローンでの点検との比較 ドローンを用いた洋上風力発電の点検では、風車の周りを飛びながらブレードやタワーを撮影し、その画像をリアルタイムで確認する。ドローンを用いることで、実際に人間が風車の近くに行く必要がなくなり、リスクの高いロープ高所作業を行う必要もなくすことができる。しかし、ドローンは風に流されてしまうため、狙った箇所を撮影するには高度な技術が必要である。さらに、ブレードとの衝突を防ぐため、ブレードに接近して撮影をすることは現状不可能である。一方でロープ自走式昇降機の場合は運動がロープ上に制限されるため、ロープに十分な張力を発生させることで風の影響を最小限に抑えつつブレードに接近することが可能である。 ②ロープを用いた、他社のブレードの点検ロボットとの比較 一般によく知られているエレベーターは、ロープを滑車にかけ、滑車を回すことでロープを動かし、かご部の昇降を行う滑車式昇降機である。こうした滑車式昇降機の場合は大容量の貨物の運搬を1か所で安定して行うことができる。しかしシステムが大掛かりになってしまうため、設備の導入に長時間を要し、使用できる場所が制限されてしまう問題がある。 実際、いくつかのヨーロッパの企業は、この滑車式昇降機を応用させたロボットを用いた点検事業を行っている。こうしたロボットは陸上風力発電のように風車の周りに広い土地がある場合は利用できるが、洋上の場合は難しい。一方、我々の自走式昇降機は、昇降機自体に動力が組み込まれているため、滑車式と比較して軽量であり、シンプルなシステムになっている点が特徴である。また、ロープ全体を動かす必要がないため、1本のロープ上を複数の昇降機が独立して昇降でき、ブレードの両面を同時に点検することも可能である。各ブレードにロープを同時展開することで3本のブレードを一挙に点検することもできるため、点検時間の短縮に大きく寄与することができる。さらに、自走式昇降機の場合はロープさえ取り付ければ運用可能であり、より少ない人員での点検が実現できる。


将来の計画

現在は、上の動画にもあるような模擬風車翼を用いたコンセプトの実証を行っている。今後は、カメラを用いて撮影しながらの昇降や、100m以上の昇降能力の実証をする予定である。来年の3月までに、陸上の風力発電での実証実験を行うことを目標としている。また、来年の年末までには、画像診断技術を実装し、実際の洋上風力発電での実証実験を考えている。


他アワードでの受賞歴

・宇宙エレベータークライマーチャレンジ2022 in 新潟工科大学 クライマー部門賞 (https://www.jsea.jp/2196 ) ・日本最大級オリジナルHardwareコンテスト『GUGEN2022』 優秀賞 (https://gugen.jp/result/2022.html )


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