スキップする
国際TOP20

Syrinx

Syrinxは失われた声を取り戻すウェアラブルデバイスです。喉に外部から声の素となる振動を与えることで、喉頭を摘出し発声能力を失った人などが再び人と話すことができるようになります。

概要

Syrinxは失われた声を取り戻すウェアラブルデバイスです。喉に外部から声の素となる振動を与えることで、喉頭を摘出し発声能力を失った人などが再び人と話すことができるようになります。


経緯

もう人前で話したくない。これは、喉頭がんで声を失った人の訴えの一つです。声を使った会話はコミュニケーションをとるのに最もスピーディーかつ簡単な方法ですが、世界では毎年30万人以上ががんなどの理由で声を失っています。元々誰か困っている人に対して貢献したいと考えていた私は、知人の紹介で声を失った人の動画を初めて見て、健常者の声との大きな違いに驚きました。その後実際に、銀鈴会と呼ばれる喉頭摘出者の団体に話を聞きに行き、インタビューやアンケートを通して理解を深めていきました。彼らは手術で声帯を摘出する際に喉に穴が開き、肺からの空気が漏れてしまいます。そこで肺ではなく、胃から空気を口に出して発声する食道発声を用いるのですが、それには体力を必要とする上、生成される声もげっぷのそれに近いものになってしまうことから、当事者は公共の場では話すことをいつも躊躇っているということがわかりました。食道発声に代わる手法として、外部から喉に振動を与え声帯の役割を代替し、口パクだけで声を生成するデバイス、EL(電気式人工喉頭)が20年程前に開発されました。しかし、その使用には常に片手で喉にデバイスを押し当てなければならず、さらに生成される声も機械的で依然人の声とは程遠いものでした。彼らにもう一度楽しい会話というものを取り戻して欲しい。そういった思いからプロジェクトがスタートしました。


機能

Syrinxには声を失った方々が日常生活で使いたいと思えるような3つの特徴があります。 (1) 人に近い原音を生成する機能。人が発声する原理として、まず肺からの空気を声帯で振動させ原音に変えます。この原音が声質を決定しています。その後原音は咽頭・口腔を伝わり、我々が日々発声している時のように口の形を変えることで声となります。しかし喉頭摘出者は声帯が無いので原音を作れません。そこで、原音に代替する振動を外部から与えるデバイスであるELがありますが、生成される声は単調で機械的なものになってしまいます。また生成される原音は誰が使っても同じなので、声の個性もありません。そこで、私たちはAIを用いた独自のアルゴリズムを用いて過去のユーザーの元の声を解析し、その声を再現する振動パターンを作製しました。 (2) ハンズフリーでストレスフリーな設計。従来のELは先端に振動子の付いた円筒形のデバイスで、手で喉に押し当てて使うことから、常に片手が塞がった状態になり、ユーザーは常にストレスを抱えていました。そこでSyrinxは振動子を首に固定できるウェアラブルデバイスとしてデザインし、ハンズフリーでストレスフリーな会話を実現します。 (3) 使いたくなるデザイン。意識したのは、公共の場で付けていても悪目立ちせず、むしろ会話のきっかけとなるようなクールな外観と、多様なユーザーの美的ニーズに応えることのできるカスタマイズ性です。デバイスのカバーは簡単に交換可能で、ユーザーの好みの色にカスタマイズすることができます。


開発過程

私たちはまず最初に、装着しやすく、付けていても違和感がない軽量なデバイスを目指して、小型の骨導振動子や咽喉マイクのネックバンドと組み合わせたプロトタイプを開発しました。その当時は振動を従来の音声変換で用いられているGMMモデルを用いた機械学習のアルゴリズムで生成していました。早速このデバイスを喉頭摘出者の方に試してもらったところ、話している本人も自分の声が聞こえないほど生成される声が小さく、「これなら使わない」と言われてしまいました。それを受け、大きいサイズの振動子を採用したことでより音のボリュームを大きく、かつ広い周波数帯域の音を安定して出せるようになり、当初の課題は解決しましたが、ユーザーからは、「見た目が付けたいと思うものではない」との意見をいただきました。そこでチームにデザイナーを迎え、ユーザーが使いたくなるようなデザインを踏まえた次期プロトタイプの開発を行い、これにより現在のSyrinxへと至りました。それをユーザーに試してもらうと、「これなら是非付けたい!」といった非常に好意的なフィードバックを得ることができ、今後の開発モチベーションにも繋がりました。


差別化

Syrinxはハンズフリーで使用可能なウェアラブルデバイスとして開発されており、従来品と異なり、発声時に片手が塞がることがありません。これにより、運転中、食事中、そしてタイピングなど両手がふさがるような場面でも声でのコミュニケーションが可能です。 また、従来のELと異なり2種類の振動子を用いています。一方は元々のELに入っているものと同タイプの振動子ですが、もう一方はより高い周波数帯域の音声も出力可能なものになっています。この2つの振動子でより広い周波数帯域をカバーすることができるため、幅広い声質を再現することが可能となりました。さらに、従来のELでは単純なパルス波しか出すことができず、それがロボットのような機械的な音声の原因となっていました。そのため振動子を2つにして、ヒトの声のようなより複雑な振動波形も生み出せるようにしたのです。


将来の計画

今後、振動音の漏れを低減することでより音声の質を向上させます。振動子の種類と振動音の生成方法の改良を続け、抑揚を踏まえたよりリッチな声の生成を目指します。また、ユーザーによって振動子を当てる位置は様々です。そういった個人差を吸収可能かつ、より簡易な振動子の固定方法を追求し、更なるユーザビリティの向上に努めます。気管切開や声帯麻痺など、がん以外での病気で声を失った方にもテストをしてもらい、より幅広い人々の助けになるようなデバイスの開発を行います。最終的にはSyrinxを必要としているユーザーに届けるための製品化を目指します。声を失った人々が日常生活で何不自由なく話すことのできる社会を実現します。


他アワードでの受賞歴

Microsoft ImagineCup 2020, 世界TOP3


トップページに戻る